英雄(勇者と魔王)

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横薙ぎに振るい、袈裟斬りに振るい、縦に、横に、斜めに振るう。想定し得る角度全てから斬りかかり、全てが相手を死に至らせる一撃に匹敵する。 それらを弾き、受け流し、そして反撃する。勝つことを諦めず、負けを認めない。許さない。負けることを考えもしない。たとえ不利でも、一方的でも、一瞬の隙を見つけ出し魔王を殺す凶刃を振るう。それが今勇者が唯一出来ることだった。 「もっとだ!もっと楽しませろおおおおおおぉぉぉおおおお!」 間合いを上げて、魔王が咆哮する。空気が振動し、石造りの部屋にヒビが入る。音の波はそれだけで一つの武器と化し、辺りに甚大な被害をもたらした。いずれこの城も崩壊する。強靭な肉体を誇る魔王ならばともかく、魔法で肉体を補強している勇者は死力を尽くしている今、崩壊に耐える為に魔力を回す余裕はないだろう。 時間は残されていない。負けても死。時間が経ちすぎても死。生き残るには今すぐ決着をつけ、勝利するしかない。 「あー、面倒だなァおい。何もかもが面倒でヤになっちまう」 ぼそりと勇者が呟く。響く筈のない声はしかしこの部屋だけでなく、不思議と城の辺りに広がる戦場で戦う全ての存在の耳に入っていた。
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