第4章 不覚のバースデー

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「僕だって、茜ちゃんの願いなら叶えたいよ、でも、僕は…」 「ありこさんしか、好きにならない?」 僕が躊躇って、続けられなかった言葉を、茜ちゃんが代わりに引き取った。 「そうだ」とも「違う」とも言えなくて、また黙り込む。 茜ちゃんはそんな僕に、自分の机から離れて、こっちに歩を進めてきた。 いつの間にか、僕のまん前まできて。 茜ちゃんは、両手を後ろに組んで、僕を下から見上げる。 ありこさんの鋭い僕を射すくめるような視線とは違って。 くりくりした丸っこい瞳で、僕の心の中まで、覗き込んでいるような視線。 今日は、殆どこっち見なかったくせに。 「そんなこと、言い切れる? 恋に、絶対と、永遠は、ないよ、穂積くん」 だから、あきらめないってこと? 「わかって、るよ」 アタマでは。理屈では。 恋は、いつか終わる。 でも、現実の恋を失くした痛みを。 手放そうとする苦しみを。 僕は、知らない。
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