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「はい、これ」
茜ちゃんは、僕の胸に、一枚のA4サイズの用紙を押し付けた。
「何、これ」
受け取って貰いたいもの、ってこの紙切れ!?
肩透かしを食った気がして、僕は戸惑いながら、その用紙を、目の高さに持ち上げた。
「住所変更届け。出てないよ、穂積くん。提出お願いね」
「住所って…」
ああ、ありこさんちのか。
ポカンとした、僕の表情が可笑しかったのか。
「また、何されるんだって、ビビってたでしょ」
茜ちゃんは僕をからかう。
「うるさいな」
茜ちゃんをあしらって、僕は、用紙を四つ折りに、ポケットにしまう。
「さっき、穂積くんの胸、すっごい早く動いてた。私が、諦めないのは、可能性がゼロじゃないと思うからだよ」
…ありこさんが聞いたら。
また、浮気者と罵られそうな。
「僕が、ビビリで小心者だからだよ。茜ちゃんにドキドキした訳じゃない」
僕は、ドアのノブに手を掛けた。
「――嘘つき」
背中にぶつけられた罵倒には、振り向かなかった。
振り向けなかった。
嘘だけど本当。
本当だけど嘘。
僕だってオトコだからさ。
茜ちゃんは可愛いし、好きだし、間近に来れば、鼓動くらいは、早くなる。
でも。
(恋ではない)
この先も変わるとは、思えない。
売り場に戻る階段で、ふと立ち止まった。
(短冊…どうしよう)
叶えてあげられない、でも、勝手に外すことも出来ない。
茜ちゃんの願い事は、これから三日間、店の入り口に揺れ続けた。
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