第4章 不覚のバースデー

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Ⅷ ありこさんリクエストの、ドンペリなんて、うちの店には置いてなくて。 スラックスのポケットに小さな箱だけ潜ませて、僕はありこさんちに帰った。 「もう熱大丈夫?」 ただいまのキスより先に、僕の額に、ありこさんは自分の額を当てた。 玄関の段差は、僕たちの背丈の差を、フラットにする。 「すっかり下がったんだね」 僕と同じ目の高さで、ありこさんは嬉しそうに笑った。 抱えていた後ろめたさが、消えてくような明るさで。 くっつけられた頭を後ろから手で支えて、僕はいつもより、長く深く、口づけた。 「ごめん、ドンペリ売ってなかった」 唇が離れた後、もう一度額を押し当てて謝ると。 意外な、答えが返ってきた。 「あー、そうそう。どうせなら、一緒に飲みたい酒、あったんだよな」 「……?」 アルコールと見れば、見境なく飲み干しちゃう、ありこさんが。 飲まずに取って置くようなお酒、あったっけ?
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