存在価値

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「柳ヶ瀬高校を選んだこと、後悔してるの?」 母さんの言葉に、思わず唇を噛み締める。 遅い朝食を摂る俺の向かいに座る母さんは、ジッと俺を見つめていた。 当時、俺には沢山の選択肢があった。 甲子園出場常連校からの誘いだってあった。 その中で自らが選んだ柳ヶ瀬高校。 世間をアッと言わせたかった。 『あの柳ヶ瀬高校が!?』 自身の実力を誇示する俺の野望。 『上条(カミジョウ)輝真率いる柳ヶ瀬野球部』 そんな肩書きにも優越を感じていた。 ハッキリ言って俺の内面、腐ってたかも。 「実はね、」 俺の返答を待ちかねて、母さんが口を開いた。 「最近、何度か東亜高校から連絡があったの。」 東亜? 今大会地区予選準決勝で柳ヶ瀬に負けて三位だった東亜高校? 「今からでも東亜に来ないかって。」 「えっ?」 「東亜野球部のエースとして、来年の甲子園を目指さないかって。」 しばらく頭の整理に時間がかかった。 当時、もちろん東亜からの誘いもあった。 柳ヶ瀬を選んだのは、捕手の技量が東亜より勝っていたから。 投手の実力は捕手力なしでは発揮出来ない。 「来年期待できる投手がいないんですって。」 確かに目に留まる控え投手はいなかった。 だから俺を? 母さんは言いにくそうに言葉を続けた。 「柳ヶ瀬が輝真を見放すなら、東亜は両手を広げて上条輝真を歓迎するって。」 ……見放す……!! 俺ってやっぱ繊細なのかも…… かなりの衝撃…… 柳ヶ瀬に、俺は、必要、無い、か…… 箸を持つ手に力が入る。 「母さん、輝真のこと分かってなかったね。ずっと、苦しんでたのね。 ……ごめんね。 今後のことは、あなたの好きにしていいからね。」 母さんは、分かってたんだ。 かける言葉が見つからずに、 東亜のことも言えずにいたのは、 母さんも苦しかったからだろ? だからさ、 「謝んなよ。 余計に苦しくなる。」
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