存在価値

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俺は東亜高校野球部が練習に汗を流すグランドに来ていた。 グランドは駅から歩いて10分程の東亜高校と大学病院の境界にある。 だから時折、けたたましいサイレンを鳴らした救急車が通過する。 その中で、遠めに東亜野球部の練習風景を眺めていた。 はたからみたら、チームワークに問題はなさそうだが、ホントに此処に、俺の居場所はあるのだろうか? 投球練習をする投手陣はどいつもパッとしない。 強肩そうな捕手を見て、 『コイツが投げた方がいんじゃないか?』と思う程だ。 東亜は俺を必要としてる? 疑問符は払いきれないが、 とてつもない衝動が俺を包む。 「野球、してぇな。」 声に出して発していた。 「昇タンもしたいです。」 えっ? 俺はまた反射的に左右を見た。 そしてあの時の様に下からの視線に気付く。 「一緒ですね。」 あの時のガキが、またニッコリと俺を見上げて笑っている。 「お前、いつかの……」 「昇タンですよ。」 『昇タン』と言う響きに『ママたん』を思い出す。 「お前の、いや、昇のママっていくつ?」 思わず聞いてしまった。 「ママ?」 「ん?」 「昇タンは5才ですよ。もうすぐ6才ですよ。」 「だから昇じゃなくて、昇のママっ!」 ついムキになってしまい、俺は慌てて笑顔を作る。 「だからもうすぐ6才の昇タンのママたんはいくつ?」 自分で自分の幼児語に引いてしまった。 しかし昇は安心した様に笑顔を返して来た。 「ママたんは16才ですよ。 もうすぐ17才になりますよ。」
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