存在価値

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「16って……」 その後の言葉が続かない。 口をあんぐりしている俺のTシャツの裾を昇が引っ張る。 「昇タンも野球したいです。」 思考が追い付かない。 「パパに頼んだら?」 適当な返事になってしまった。 「……」 昇の反応が鈍る。 あれっ? もしかして…… 『やばかったかな?』と思いながら顔を覗き込むと、昇は笑顔で言った。 「じゃあ、パパたんになって下さい。」 …オイオイ… いきなり子持ちは無理でしょ? 返答に困る俺に、救いの手、いや、言葉が…… 「無理言わないの。」 そうそう、無理は―――― !!!! 声に振り向くと、そこにはママたんがいた。 「あっ、」 「ごめんなさい。」 ママたんは俺にチョコンと頭を下げた。 「だってぇ~。」 甘える様に拗ねる昇。 「みんな忙しいの。パパたんになる暇なんてないのよ。」 ウンウン、そんな暇……って、 忙しいとか暇とかの問題ですか? 「ねぇ?」 爽やかな笑顔で同意を求められても困るんだけど。 「あっ、いや……」 俺のとんちんかんな表情に、 ママたんがクスッと笑う。 「なってくれます? パパたん。」 プロポーズですか? ママたんは更にクスクス笑い出す。 「えっ?」 「ママごとなんです。」 「ママごと?」 「幼稚園に行ってないから、遊び相手がいなくて。」 「ヒカリがママたんですよ。」 嬉しそうに昇が言う。 「だよな? マジ焦った。」 ホント焦った。 「私はヒカリです。七瀬 光。 【光、輝く】の光です。」 何故かドキリとする俺。 ヒ カ リ カ ガ ヤ ク 「俺は輝真。上条 輝真。 【光、輝く】のテル。」
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