「ダメですよ。」

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ウゥーウゥーウゥー…… 試合終了を告げるサイレン。 「クソォッ!」 カランカランカラン まるで『蹴ってくれ。』と言わんばかりに足元に転がる空き缶を、俺は望み通りに蹴り上げた。 駅前の小さな電気屋のショーウインドーに視聴用に置かれたハイビジョンテレビの前に出来ていた人だかりが、一瞬でバラける。 テレビ画面は全国高校野球【夏の甲子園】決勝終了と共にニュースへと切り替わっていた。 人だかりは、嫌悪の視線を俺に投げ掛けながら消えていった。 「ダメですよ。」 えっ? 反射的に左右を見渡し、 そして下からの見上げる視線に気付く。 「ダメですよ。」 何なんだ、このガキは? 「缶カン蹴ったらダメですよ。」 タッタッタッタッ カラン ガキは俺の蹴り上げた空き缶を拾うと 自動販売機の横に置かれたゴミ箱に入れ、俺に向かってニコッと笑った。 『ダメですよ、先輩。 』 全国高校野球【夏の甲子園】地区予選決勝。 『クソォッ!』 そう発っしながらマウンドを蹴り、ベンチに戻った俺に、マネージャーのアカリが言った。 『ダメですよ、先輩。 マウンドを蹴ったら、ダメですよ。』 アカリはニッコリ微笑んだ。 しかしあの時の俺には、その笑顔が受け入れられなかった。 俺は自分の実力に、自意識過剰になっていた。 仲間のミスを許せなかった。 ここまで自分一人の力で勝ち上がって来たかの様な俺の態度に、試合終了後、ねぎらいの言葉をかけて来る奴は一人もいなかった。 唯一、マネージャーの笑顔さえ受け入れられなかった俺の野球人生は、孤独に終わった。
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