「ダメですよ。」

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自動販売機の横に、あどけない笑顔で佇むガキへのバツの悪さに、俺は口元を緩ませ、取って付けた様な笑顔を返して その場を後にした。 トコトコトコトコ ん!? 背後からの気配に振り向くと、ガキが慌てて足を止めていた。 「早く帰れよ。」 俺なりに優しい口調で声をかけ、再び歩き出す。 トコトコトコトコ 再びの気配に、さっきよりも素早く振り向いてみる。 タッチの差でガキは足を止めていた。 こんな遊び、ガキの頃よくやってたような……? 俺は前を向き、一歩足を踏み出すそぶりを見せていきなり振り向いてみた。 「あっ!」 俺のフェイントに、ガキは片足を上げたまま固まった。 フッ、所詮ガキだな。 って、何で俺まで遊んでんだ? 「お前、もしかして迷子?」 「迷子じゃないです。」 怪しい。 「迷子だろぉ?」 「迷子じゃないですよっ!」 ムキになるところが益々怪しい。 「母ちゃんは?」 ガキの顔が微かに歪んだ。 ヤベッ、 「おっ、おい、泣くなよ。」 「泣かないですよ、男は泣きません!」 「ヘェー。」 いっちょ前だな、ガキのくせに。 変な感心をしてると、さっきの電気屋から出て来た女性が、こちらに向かって叫んだ。 「昇(ショウ)たーん!」 ガキはたちまち笑顔になり、女性に向かって両手を振りながら駆け出した。 アイツ『ショウ』って言うんだ。 「ママたーん!」 で、あの女性がママ。 随分と若いマ……? へっ!? ママ? マ、ママ? 若すぎるだろっ!? どうみても女子高生だろ? 昇はママ?…… に抱き着くなり、 俺の方を見ながらママに何かを呟いていた。 ママは昇に向けていた顔を俺に移すと、軽く会釈をしてきた。 その表情が何故か、戸惑いを帯びていた様に見えたのは、気のせいだろうか? 俺も会釈を返し、昇とママが手を繋いで歩き去る後ろ姿を少し見送ってから歩き出した。 そして感じもしない気配に、期待するかの様に振り向いてみたが、既に二人の姿はなかった。
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