「ダメですよ。」

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気が付けば、俺はバスに乗ることもなく ひたすら40分も歩き続けていた。 目の前には、ついこの間まで甲子園を目指し、汗を流していたグランドがあった。 まだ日が落ちる前だというのに、 人気のない殺風景なグランド。 今日は【夏の甲子園】決勝。 来年に向けての士気を高めるため 野球部全員で、球場へ見学に行ったからだ。 [駅に10時集合です。遅れないでくださいね。] 昨夜のアカリからのメールに、俺は返信することもなく携帯を閉じていた。 しかし皆には遅れてだが、俺も一応、駅までは行った。 だが結局、何本もの電車を見送り、 帰ろうとしていた足を、駅前の電気屋で止めていた。 俺ってホント――― 「輝真(テルマ)先ぱーいっ!」 えっ? ハァ ハァ ハァ 息を切らせながら駆け寄って来たのは アカリだった。 「何だよ、今日は練習ないだろ?」 「グランドの様子見に来たんです。 今日 整備してないから、荒れてたら明日の練習前に整備しておこうと思って。」 「一日くらい整備してなくたって大丈夫だよ。」 俺の言葉は優しくなかった。 マネージャーとしての責任感を、否定するものだったから。 グランドコンディションは大切だ。 練習中のケガにも繋がりかねないから。 なのに俺ってやっぱり――― 「情けないですね。」 …………! 思わずアカリの顔を見る。 「マネージャーとして情けないです。 今、何をしたらいいか分からないんです。マネージャーとして、何をするべきなのか……」 アカリは悲しげに俺を見た。 「辞めたり、しませんよね? 先輩は、野球を辞めたりしませんよね?」 アカリが笑顔になる様な返事を返してやりたかったけど、 「俺のことより、光輔(コウスケ)の心配したら?」 情けない俺は、話しを逸らすことしかできなかった。 アカリがずっと俺を見ていたことくらい、気付いてるのに…… ホント俺って、情けねぇ。
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