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「コウちゃんは正捕手になりましたよ。
次の試合からは背番号2です。」
「……そっか。」
当然だな。
三年生が引退した今、正捕手の座はアイツしかいない。
そんな言葉を付け加えたかったけど、
臭過ぎて言えない。
まぁ俺が言っても、本心からだとは思って貰えないだろうけどね。
------クソォッ、
あの時のあの苛立ちの矛先は、
正にアイツにぶつけたものだったから。
「帰る?」
「あっ、えっ、いやっ、……はい。」
アカリは名残惜しそうに表情を曇らせる。
そんなアカリを、愛らしいと思う俺がいる。
「折角だから、夕日でも拝んでくかっ。」
俺はドタッとその場に座り込む。
「はいっ!」
アカリは一瞬にして瞳を輝かせ、
嬉しさ丸出しで顔をほころばせながら
俺の隣に腰を下ろした。
単純なヤツ。
この単純さが、時には心地好い。
「肩、借りてもいいですか?」
「……」
グランドに沈みかけた夕日が、こんなにもコイツをロマンチックにさせているのだろうか?
アカリは俺の返事を待たずして、既に俺の肩に、遠慮がちに頭をもたれ掛けていた。
完全に日が沈み、辺りが薄暗くなる。
こんなシチュエーションの中でもアカリは、警戒もせずに俺に寄り添い、しかも安心しきっている。
いくら何でも無防備過ぎだろっ?
「キス、しよっか?」
アカリはピクリと反応し、頭を上げて一直線に俺を見た。
その眼差しがあまりにも純粋で清らかで、俺の方が戸惑っていた。
見つめ合ったまま、互いに探り合うかの様な沈黙が続いた。
そして、そんな沈黙を破って、アカリが囁いた。
「……ダメですよ。」
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