「ダメですよ。」

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アカリの家にたどり着き、立ち止まる。 「じゃあな。」 それが合図の様に、俺に絡めていたアカリの腕が離れる。 「ありがとうございました。」 アカリはペコリと頭を下げた。 そして、背を向け再び歩き出す俺を呼び止めた。 「先輩っ。」 「あん?」 「明日は練習来て下さいね。 サボったらダメですよ。」 俺は地区予選決勝敗退翌日から、野球部に顔を出すことはなくなっていた。 ------クソォッ 試合中に仲間のミスを責めた俺の居場所は、もう柳ヶ瀬野球部には無いと感じていたから。 中学時代から野球センスを買われ、 地元以外の高校からも、オファーが幾つかあった。 しかし俺は地元でのプレーを選んだ。 地区優勝の実績が無いこの柳ヶ瀬高を、俺が甲子園に導いてやる。 そんな闘志に燃えていた。 一年生の夏、背番号10を付けた俺は、事実上のエースとして地区予選ベスト4に輝いた。 チームの打撃力が優勝には及ばなかった。 しかし甲子園に通用する俺の実力を見せ付けることは出来た。 甲子園がただの夢や憧れではなくなった現実に、部員達の闘志は高まった。 そして迎えた今年の夏。 二年生になった俺は堂々と【背番号1】を掲げ、マウンドに立った。 誰もが柳ヶ瀬高校の優勝を疑わない状況でミスが起きた。 控え捕手だった光輔の捕球ミス。 全てが完璧に、俺のシナリオ通りに此処まで来たのに、光輔によって覆された。 容赦なく責め立てる俺の態度に、チームは乱れた。 互いの信頼が崩れた。 正捕手となった光輔とバッテリーを組み、信頼の崩れたチームメートと共に甲子園を目指すことは、難しくなった。 もはや俺を必要とするチームメートもいなかった。
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