影を踏む

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 兼倫は、はて、と思った。 見ると衾が捲れて滑り落ちていたから、おおかた身体が寒さを覚えて目が覚めたのだろうと、はじめは思ったのだ。  だが、冷えたそれを手繰り寄せる間に別なことに気がついた。  枕元に置いてある御髪筺がやたらとはっきり見える。  夜が明けるまでにはまだ遠かろうと思ったが、はや鳥鳴く刻になっていたのだろうか。  しかし衝立障子越しに格子戸から覗く外の色には、暁の気配があるとも思えない。  ならば月明かり。  たしかにゆうべ、宵の口に外歩きをしたときは月影の隈なきを面白いと見た。いや、いかにもおかしい。あの月はとうに山の端に沈んだはずだ。  それにたとえ重陽の頃の月であっても軒端から奥まったここまでは月の光は差し込まぬのに、今はどうだろう、文机で筆を取ることすらできそうな明るさだ。  下人たちはなにも気づいていないのか、起きているような様子はない。  兼倫は首をひねりながら妻戸の外に出てみた。
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