欠落

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  人が本を読む意味って、なんだろう。 ファンタジーな世界に溺れるため? アクションを擬似体験してハラハラするため? ラブストーリーに触れてときめくため? ああでもないこうでもないと推理して思いを巡らすため? 自分が思いつく限りを挙げてみるが、そのどれもが私には当てはまらない。 また一冊、私は本を読み終えてため息をついた。 深い虚無感が襲うのと同時に、現実へと引き戻された。 忘れていたかった現実。 私は咄嗟に、次の本を求めていた。 まるでヤクに溺れたかのように、私も本にとりつかれていた。 本を読む事で現実から逃げていた。 本を読んでいれば……読んでいる間だけは、私は私じゃない。 時には幸せに満ちたヒロイン、またある時には過酷な運命を背負った少女。 本は私に何だって与えてくれる。 書き著された通りに…… それ以外なんて、いらない。 こうと決まった結末以外、私は望んでいないのに。  
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