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茶化すようにそう言う銀時に土方の苛立った、しかし優しい声が耳元に響く。
「…るせぇよ。こちとら真剣に言ってんだ。いいから黙って口説かれとけよ。」
「くどっ…て、好きしか言われてないんですけどっっっ!」
そんな銀時の言葉に土方が軽く舌打ちし銀時をそっと引き離す。
「十分だろうが?…何が不満だてめぇ…。」
そう言って顔を覗き込まれる。銀時が苦笑して目を逸らす。
「いや、何か…もう少しこう…。」「………?」
全く分からないと言った顔の土方に深くため息を付く銀時。この男はモテるくせにこういう口説き文句はからっきしだ。まあそんな所がらしいと言えばらしいのだが。ククッと銀時が笑った。土方がそれを見て顔をしかめる。
「なんだぁ?何が可笑しい?」
土方が不機嫌そうに聞く。
銀時はそれには答えず代わりに土方の頬に軽く口付けた。いきなりの不意討ちにバッと頬を押え、真っ赤になる土方。
「な、な、何しやがんだいきなり…!」
「いってらっしゃいのキス。」
「…は?」
ニヤリと銀時が悪戯っぽく笑ってきっぱりとそう言った。
「そろそろ行かねぇとヤバイんじゃあねぇの?土方くんよ?」
土方はハッとして腕時計を見た。沖田からの電話から20分は経っていた。
「やべっ!」
そう言った後、銀時の頬にそっと手を当てながら言う。
「じゃあ、行ってくる。」
まるで亭主が妻に言うようにそう言うと手を上げて駆け出した。そんな土方を銀時は見えなくなるまで見送った。
(おわり)
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