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解らないものよ
ひとの気持ちなんて。
その通り。
誰も他人の心の内なんて
読むことができない。
◆
多くの人が
心を読もうと
必死に格闘していた。
屁理屈を並びたて
ありもしない提言を述べた。
そんなお偉いさん達に
私は質問したい。
あんた達は自分のそれを
理解しているのか、と。
心ってなんだろう
私ってなんだろう
◆
昔昔、大きな大きな湖の
真ん中に浮かぶ島に
一人の男がいました。
男は自分が誰で
どこから来たのかも
知りませんでした。
分かりませんでした。
島には何もありませんでした。
何かあったのかもしれないけれど男は知りませんでした。
分かりませんでした。
男は島を気の遠くなるほど
何周も何周も回りました。
何かを探していましたが
それが何か
男は知りませんでした。
分かりませんでした。
男は途中で諦めました。
もう疲れました。
そして男は気の遠くなるほど
長い間湖を眺めていました。
男はお腹が空きましたが
何も口にしませんでした。
でも生きていました。
男は喉が渇きましたが
何も飲みませんでした。
でも生きていました。
男はもう何も
分かりませんでした。
ただただ
湖を見つめるだけでした。
湖はやがて
波紋を広げるのを止め、
完全に動かなくなりました。
男は夢を見ていました。
湖でボートに乗っている。
そんな夢でした。
湖は蒼く、ただ蒼く
男の下に横たわっていました。
その湖はとても澄んでいました。そしてまた
とても深かったのです。
だから何も見えませんでした。
男は何があるのかと
ボートから身を乗り出し
湖を覗き込みました。
隣で大きな音がしました。
何かが湖に落ちる音でした。
けれどボートからは
何も見えませんでした。
男は分かりました。
ですがもう遅いのです。
男はそれを忘れることに
しました。
男の記憶からは消されましたが
湖は忘れません。
湖の奥底に
それは沈んでいるのです。
男はやっと見つけました。
そして目を覚ました男は
自らも湖に沈んでいきました。
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