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女は困っていた。
それは少し前にさかのぼる。
今日は真夏日。もう夜だというのに、ムシッとした空気が自分の周りに広がっている。
もちろん、女自身も少しばかりベタベタする自分の肌がこの空気を増長させていることなど、百も承知だった。
今着ているスーツのワイシャツがぺったりと肌に張りつき、言い様のない気持ち悪さが女を包む。
早くシャワーを浴びたい。
女が今考えていることはただそれだけだった。
その為か、心なしか早歩きになり、また多少汗をかいた女だったが、漸く自宅に戻れたのでそんなことは今は気にならなかった。
これでやっと身体中の汗を流せると思い、女は軽い足取りで浴室へ向かった。
そして、浴室に入ろうと電気のスイッチを押した。
パチッ
……しかし、浴室は暗いままである。
パチッパチッ
女は何かの間違いだとでもいうようにもう一度スイッチを押した。
しかし、やはり電気は点かない。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチッ
やけくそのようなある意味すごいスイッチ連打。
しかし、相変わらず浴室は暗いまま。
女は溜め息を吐きその場に座り込んだ。
冷房を窓もない洗面所は暑く、女の皮膚からは汗が滲み出ていた。
女は考えた。
さて、どうする?
このまま着替えるだけして寝るか?
否、今日1日汗をかき続けた肌と頭のままベッドに入るなど絶対に嫌だ。
タオルを濡らしてふくか?
否、それだけでは臭いがとれない。
では、電球を買いにいくか?
……こんな時間に?
女はふと、時計を見た。
あと30分で日付がかわる。
……コンビニに電球は売っているのか?
そんな疑問は浮かんだが、どうしてもシャワーを浴びたかった女はすくっと立ち上がり、着替えてカバンを持ってから外へ出かけて行ったのであった。
そして今、女は困っていた。
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