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女はもう、無視できなかった。
意を決して振り向くと、大きな包丁を持った男がニタリと笑ってこちらを見た。
女の背筋が凍る。
体は硬直して動かない。
しかし、女は元来ポーカーフェイスなのか、表情は殆ど変わらなかった。
それに反して女の内心はパニック状態だった。
死ぬのか?私。いやいや、まだまだ人生の途中よ?
ここで死んでどうする。
て言うか私が死んだら悲しむ人が…………死んだら…………………あれ?悲しむ人、いるっけ?ちょっと待てよ。
両親は先に逝っちゃってるし、親戚は疎遠だし、友達はいたけど、そんなに親しい人もいないし、彼氏もいないし……………あれ?なに?私、死んでもオーケー?………いやいやいや、痛い思いして死ぬのは嫌だよ。あの包丁デカいよ?絶対痛いよ、あれ。まじで。
女がそんなパニック状態にあることなど全くしらない男は、表情が変わらない女を見て少し不審な目をし、どこかつまらなそうな表情を見せるが、自分の欲求を優先させることにしたのか、早くこの手で肉を引き裂きたいと言わんばかりに興奮しながら女に近づいて行った。
そして───
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