第1話

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というのも、裕福な家庭の娘は、名のある屋敷へ嫁がせても恥をかかぬようにと「婦女子教本」の教えを叩き込まれていたからだ。 “妻は夫に背を見せるべからず” 妻は慎みを持つべきである。夫の三歩後ろを歩きなさい。 “嫉まず妻である自覚を持て” 妻は夫の甲斐性に口を出してはいけない。嫉妬はあるまじき行為だ。 などの、男尊の教えを説いたのが「婦女子教本」である。 彩志がこれまでに目にしてきた官吏らの妻は、自らの母を含め、夫に従うだけの寡黙な女性しかいなかった。都季のようにころころと表情を変える自由な女は見たことがない。 彩志は燕麗を一見して、やはり都季とは違うか、と思わずため息を吐いた。 しかし、燕麗が「婦女子教本」を修めていることは好都合でもあった。都季を連れてこいというこちらの条件に、好ましくない顔を見せる訳にはいかないからである。 「この年齢で婦女子の教えを全て修得したとは、これほど素晴らしい娘は他に見たことがない」
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