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中所長はたかが官位も持たぬ地方役人だとは侮れぬ。隣国に面した南部一帯を牛耳っている故、重臣らとの繋がりも厚い。
彩志の父は、中所長の悪行を知らなかった。
「どうしてもその下女が気になるというなら、こちらに迎えればよかろう。
後々はお前も官位を授かる身だ。
くれぐれも言うが、この縁談は嫌だなどとぬかすでないぞ」
「はい……。分かってます」
この国では裕福な家庭の娘が他家へと嫁ぐ際、身の回りの世話をさせる為に同じ年頃の娘をつけてやることはよくあった。
そうやって連れ立った娘が妾になったということも少なくない。
父は正妻さえ燕麗であれば、下女が妾になろうとかまわなかったのだ。
そして、彩志ら父子は正装で中所長の屋敷を訪ねた。結納の儀を交わす為だった。
***
燕麗は、なるほど大事にそして厳しく育てた姫だな、と一目で思ってしまうほど、身のこなしが穏やかで、控えめな娘だった。
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