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データーの保存が終わったのか、父がこちらに向く。
「昨日、早朝に道場に来てお前を見ていた……」
「……」
朝は明け方に起きる癖がついていたから、まさかそんな時間に見られていたとは思わなかった。
「剣道道場の娘として生まれたお前が、物心がついた頃から竹刀を引きずって歩いていたのをずっと見てきた。お前がこの道場を継ぐと言った時、私はお前にはまだ剣の真髄を悟るのは早いと……、まだ幼い剣だと思っていたのだ」
昔を思い出しているのか、父の視線が遠くなっている。
「先日まではその考えは変わらなかった。だが、昨日見た剣は私が教えた剣ではない。あの剣筋は……」
父が言い淀む。
「ここ数日、お前の様子がおかしいと思っていたが、それでも、剣筋が突然あれほど変わるはずがない」
「……お父さん」
もっとも恐れていた言葉に心が震える。
父は師範になった人だ。
私の剣を見れば、以前とは違うとわかってしまうと思っていた。
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