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ふと、ダッチアイリスの花言葉が頭をよぎる。
良い便り。
神谷にとってはそうでも――
僕にとってはそうならないだろう。
紫の花弁に残った雫が夕日をうけて煌めく。小さなガーネットの宝石が散らばっているようだ、と言えば聞こえがいいかもしれない。咲き乱れる花がそよ風にゆれ、宝石が茜空をかろやかに舞う。
風にのったアイリスの甘い香りが校舎裏に満ちていった。
その日の夜、帰宅した僕はベッドに倒れこみながら手紙を見ていた。うすい黄色の封筒、表に描かれた桃色のうさぎが時計を持って走る姿はどことなく不思議の国のアリスを連想させる。
封筒の真ん中に貼られた懐中時計のシールをはがして手紙を取りだした。
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