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最初、何を言われたのか、まったく理解できなくて、俺はただただ俺を組み敷く漆黒を身に纏った男を見つめた。
男はそんな俺の様子を楽しそうに見つめる。
「き、きゅうけつ…き……?」
俺はやっとの思いで声を出す。
心なしか、その声はかすれ、震えていた。
すると男は、一瞬、眉間に皺を寄せたが、すぐにまた先程と同じ笑みを俺に向ける。
一瞬の出来事だったが、俺は妙にそれが気になった。
だってその表情は、何かを悔やんでいるかのような、そんな表情だったから………
なんでアンタがそんな表情をするのか、その理由はわからないケド、ただ、少しだけ、胸の奥深くがツキリと痛みを訴えたんだ。
「…そう……吸血鬼……」
しばらく黙り込んでいた男が静かに口を開く。
「な、で……」
「『何でそんな伝説上の怪人が存在する』のかと?
ククッ……我々はけして伝説上の者ではない。現に『私』は存在し、君に触れ、君の血を飲んだ…君の甘美な血をね……」
「なんで、俺…ッ」
「『何で俺を襲う』のか?
…………そうだな…君が、私のコトをすっかり忘れてしまっているからかな…」
俺が……忘れてる?
「ずっと……待っていたのに…」
誰を?
俺を?
だって知らない。
俺には吸血鬼の知り合いなんて一人もいな―……
-ズキンッ
「ひッ……ぁ…ッ」
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