渇望、そして狂愛 -蜂蜜色に溺れて眠れ-

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どれほどの時間そうしていただろうか。   俺は男の胸の中で、借りてきた猫のようにおとなしくしている。   大分落ち着きを取り戻し、ふと、さっきまでの激しい頭痛が治まっていることに気付く。              こいつに抱き締められているから?     こいつは誰なんだ?       俺は                     何か大切なコトを忘れて…る……?                                     「……大丈夫か?」   「へ?あ……うん…」   男の心配そうな声に、男を見上げ、そう応えると、男は優しく目を細める。     まるで、愛しいものを見つめるかのように、けれどどこか淋しげに細められた瞳から、俺は目をはなせず、同時にツキリと胸が痛みを訴えた。         何故胸が痛むのだろうか。     何故俺は、この男にそんな顔をしてほしくないと思うのだろうか。                 「…エド?」     気付いた時には、俺は、男を抱き締め返していた。             こうしたら男が戸惑ってしまうということはなんとなくだがわかっていた。   わかっていたケド、でも、抱き締めずにはいられなかったんだ。                 俺は、俺を拐った憎い筈のこの男のことを                                 少しだけ『愛しい』と感じたから                 .
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