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彼女を助けようとする人は誰一人として居なかった。当然、誰だってわざわざあんな化け物を相手にしようと思えないだろう。無論、僕だって嫌だ。すぐに逃げ出したい。
しかし、意に反して僕の体は動こうとはしなかった。それは好奇心と恐怖が入り混じった不思議な感情だった。
だから、目線だけは彼女と奴を捉えて離さない。
「な、何よアンタ!!私に何の文句があんのよッ!!」
奴の手を振り払ってOLが叫んだ。勿論、奴は返事なんて返さない。ここからではよく分からないが、続けて彼女は何かブツブツと小言を漏らし始めた。精神の均衡も崩れ始めたようだ。
まぁ、夢の中の登場人物に精神があるのならの話だが。
「………」
彼女の言葉を奴がどう捉えたのかは分からない。しかし、奴は無言で、彼女の言葉に返事を返した。
ドスッ、ゴキッ、
肉を掻き分け、骨をへし折り、彼女の胸から背中にかけて奴の細長い腕が貫通した。奴の腕と肉の隙間から血が溢れ出し、夕闇に染まる道路を赤黒く染める。恐らく、腕は心臓を捉えている。
彼女は、信じられない、と言ったように自分に突き刺さった腕を見ると、がっくりとうなだれ、完全に意識を失ったようだった。
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