狼煙

4/5
前へ
/5ページ
次へ
この人も俺と同い年らしいけど一緒にシフトが入るのが初めてだから照れくさいというか、話しかけにくいというか…兎に角気まずい。 「…加藤だっけ?」 想像してたより低い声が響き、思わず背を伸ばして返事をすれば面白いと織田さんに笑われる。背が小さくてひょろひょろしてて中々の綺麗な顔付きだから勝手に声は高い感じかなって思っていたがそうでもないらしい。 「俺、織田信助(おだしんすけ)な。よろしくな。」 ニッと人懐っこい笑みを浮かべればポンと俺の肩を叩き、そのまま売り場へと向かった。その行動をぼーっと見ている俺は物凄く気持ち悪いだろう。予想以上に織田さんは良い人だ。どっかの嫌味野郎とか大違いだな、全く。 「かーとーうーっ!」 ふと店内からの方から名前を呼ばれ急いで廃棄の入ったカゴを置き、売り場へと小走りで向かえばレジの前に織田さんと石田が居た。 「これから龍成と一緒に冷蔵庫に入って貰うから。ジュースとか補充の方を頼むぜ。」 織田さんの言う"龍成"って言葉にキョトンとすれば、織田さんは笑いながら石田の右手を掴みグイッと引き上げる。お陰で石田の格好は小さい子が名前を呼ばれた時に手を挙げるみたいになっていた。まあ、顔は無表情だがな。 「龍成ってのはコイツな。俺達、餓鬼の頃からの友達でさ。あ!何なら織田さんっての無しで信助って呼べよ。俺も加藤じゃなくて下の名前で…んと、」 「「清一」」 声が重なり、その重なった相手へ視線を向ければその男も俺をチラリと見てふんっと視線をわざとらしく外した。勿論、こんな腹立つ男は石田しか居ない。しかしなんだ…まさかコイツが俺の名前を覚えてるとは何気に嬉しい気がする。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加