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あたしは、勇気を出して。
顔を上げようとして、顎に力を入れた。
「…あ、あの」
「おまえ、椅子の上で膝抱えるの、やめたら?
ぱんつ見えるぞ」
真っ赤になる。
ママの時、慌てて買った喪服は小さくなって。
今回は、近所のおばさんに差し出されるまま、借りた喪服。
ちょっとぶかぶかなんだ。
あたしは、慌てて脚を椅子から下ろして。
スカートの裾を、膝下まで下げて。
「あのっ、…」
あなた、誰?
聞こうとして、あたしは顔を上げた。
上げたのに。
そこには誰もいなくて…
広い会場。
遠くに見える、告別式が終わって帰る人々の列。
静かに流れ続ける、パッヘルベルのカノン。
―――まるで、夢でも見ていたかのように。
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