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『夕凪楓!!それが楓の名前です』 「へぇ、楓って言うのか」  取り敢えず始めて聞いた風な反応をしておく。 『木偏に風で楓です』 「あぁ、それは分かる」 『英語ではマップルツリーです』 「地図でも実っているのか?」  正しくはmaple tree。メイプルツリーだ。 「まぁ名前は置いといてだ、楓。何で悪戯電話なんてしたんだ?」  返答によっては起訴も辞さない。 『ただの暇潰しとしか言いようがありません』 「……」 『返事がありません。はっ!? まさか某国に拉致』 「されてない!!」  絶句していただけだ。  それにしても、発想がぶっ飛んでいる奴だ。某国に拉致って。 「……つまりだ。お前は自分の暇を潰す為だけに僕から安眠を奪い去ったわけか?」 『はい。そうですが?』 「全く悪びれる様子が無いだと……」  受話器の向こうで小首を傾げるあどけない少女の姿が容易に想像できる。 『いやー、今日は珍しく早く起きてしまって、やることも無くて暇だったのですよ』 「だからといって何故他人に迷惑を掛ける手段で暇を潰そうとしたんだ」 『最初は読書かピンポンダッシュかで迷ったんですけど』 「そこに迷う要素は介在しない!!読書一択だろ!!」 『間を取って悪戯電話にしました』 「なんの間を取ったんだよ」  次元の狭間かなんかか。 『やっぱり高校二年生になるというのは緊張します』 「僕の話は完全無視か……ってちょっと待て!!高校二年生!?」  同級生……だったのか。五つくらい年下だとばかり。 『はい、そうですよ? 何をそんなに驚いて……あ。分かりました。楓の事を大学生だと思ってたんですねっ』 「それはねぇよ」  かなり自意識過剰だった。  ……さて、そろそろ飽きてきたな。まさかの同級生だったりと驚いた事もあったが、これ以上話していても疲れるだけだろう。最後に幾つか質問して電話を切ろう。 「なぁ、楓」 『なんでしょう』 「ただの悪戯なのは分かった。だけど……何で僕なんだ?」  夕凪楓。聞き覚えの無い名前。僕は……この子を知らない。  記憶力がいい方では無いが、こんな印象的な声を忘れたりはしないだろう。となると当然の疑問だ。何で僕を相手に選んだのか。  楓はほんの少し黙り、そして。 『貴方が出たのは、偶然なんですよ』  と、そう言った。
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