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大木と紅子は真っ直ぐに紅子の暮らす公園に向かった。
大きなたこの形をしたオブジェのような滑り台、紅子の住む家だ。
大木は真っ暗な中当たり前のようにその滑り台のトンネルに入る紅子の姿にやり切れない悲しみを感じた。
「紅子ちゃん」
大木は彼女のフィールドへと入って行きそして再び問うのだった。
「私の所に来るつもりはないのか?」
紅子は顔色一つ変えずにその小さな頭を横に振るのだった。
「おじさんのその気持ちは有り難いけどね、私も『お勤め』が有るから」
大木は昼間話した事を紅子が本気で思っていると言う事を痛感した。
暗闇の中紅子の赤がよく映えていた。
それはきっと、紅子がどんな中でも一人で映え続けると言う誓いなのだと大木は納得した。
「でも、じゃあ何か紅子ちゃんの為にさせてくれないか?」
その時紅子の肩が揺れた。笑っているのだった。
「有り難うおじさん。だったらね、ずっとこのままでいて欲しいの」
「このままで?」
「そう、このままでね」
大木は紅子のいる公園を後にした。
相変わらずの罪悪感を持ち続けながら、しかし同時に達成感も覚えていた。
そうか、こんな私でも彼女の役に立てているのか。
大木は少しだが、ほんの少しだが安心した。
「このままでいて欲しい」
彼女がそう告げたのを大木は胸に留めていた。
大木はまた再び彼女を連れてどこかへ行く事を考えていた。
星空の下、一人の初老の小さな喜びもまた星と成っていた。
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