一つ目―独立の犬―

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ブラウンはアルベルトの数歩先を歩きながら、「どうしてここに配属されたんですか?士官学校の上位卒業者だって聞きましたけど…」と聞く。アルベルトは答える。「どうしてって…好きな部隊に配属される訳じゃないだろ?それは上位卒業者だろうが関係無いんじゃないかな、うん」アルベルトに上層部の考えが分かるはずが無い。上位卒業者が本来どのような待遇をされるのかすら分からないのだ。会話が止まってしまった二人は黙って歩くしかなかった。しばらくすると、開けた場所に出た。 「ここがMS格納庫です。少尉が乗る機体も、私が乗る機体もあそこにあります」彼女が指を指した方を見ると、二機のザクⅡが整備されていた。「あれはF型ですね」「だとすると、当分は宇宙に居られるのかな?」ザクⅡは宇宙型と地上型に分かれる。宇宙型のF型と地上型のJ型である。J型はF型を地球上でも活動可能にする為に改良された機体だ。彼は心躍った。なにしろ学校で乗っていた教習用のザクとは違う、戦う為の機体なのだ。あの緑の一つ目に、自分の命を預けるのだ。彼は自分が戦争に参加していることを改めて実感した。 ―その時、突然に警報が鳴りはじめた。「こちらに接近してくる物体を確認!数は二、サラミス級と断定!パイロットは至急出撃準備をしてください!」けたたましい警報音がする中、二人は急いでザクⅡへ向かう。隊長機の証であるブレードアンテナを装備したザクⅡには、既にパイロットが乗り込んでいた。自分のザクⅡに乗ったアルベルトに通信が入る。「よう、本当はミーティングで会いたかったんだが、状況が状況でな。俺はコネリー・ガーランド中尉。この部隊で隊長をやってる。よろしく頼むぜ」通信は返事を言う前に切られ、ガーランドは出撃した。続いてアルベルトも出撃する。突然の出来事で動揺してはいるが、ここにいればこんな事は日常茶飯事なのだろう。しっかりと確実に出撃準備の手順を終わらせ、アルベルトはモニター越しに宇宙を見た。暗闇に光る数えきれない星の数々。美しいこの生まれ故郷で今、自分は戦うのだ。自分達スペースノイドの自由の為に。「ザクⅡ、アルベルト・フリードリヒ少尉、出る!」 一つ目の番犬の初陣である。
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