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和馬の言葉に、集まっていた家臣らは皆一様にざわめき始める。
アスラの重臣のバラークがふいに、
「陛下、これはもしや……」
「ああ、ーーーー『落とし子(ロスト)』だ。ああ、我々にも運が回ってきたな。」
「……落とし子(ロスト)?」
言葉としては理解できるが、聞きなれない単語に思わず聞き返してしまう和馬。
「『落とし子』というのは、100年に一度異界から訪れる者のいう。漂流者は何かしら力が有る。頭脳や力、特殊な能力、それにより漂流者を得た国は何かしら発展する。」
「なんだと!?俺の他に誰か来たのか!?」
「今からちょうど100年程前にな。」
(ぐっ…、100年も前じゃ生きていないだろうな…。せっかくの情報源が…!)
「して、貴様は何ができるんだ?」
「ーーーーは?」
ここで和馬の脳裏にはある考えが巡り、頬に冷や汗を流す。
これらすべての事が現実だと仮定して、こいつらは自分を品定めしている…と。
「先程の話を聞いていたのか?『落とし子』なら何か特技が有るのだろ?」
しかし、今の和馬にはどうすることもできない。嘘を言って自分を高く見積もった場合失敗のリスクはおそらく命にかかわる。そして嘘を見抜かれた場合などは目も当てられないことになりそうだ。だから彼は
「んなもん無い。」
自分自身の素直な評価を話すしかなかった。
「ーーー何だと?」
「今まで平穏な青春を過ごしてきたんだ…。ダチとバカやって、恋愛や時にはケンカしてさ…。人に言えるような趣味も特技もねぇよ…」
ある特定の人物なら喜んでこの状況を受け入れるだろうが、彼にはそのような思考は無かった。
(ふざけんな…こんなのってねえよ…。嘘だーーー嘘に決まっている!)
彼の心の中では一つの考えしかなく、冷静を装っているが頭の中はパニック寸前。故に正常な思考は出来ていなかった。
彼の思考、それは
(帰りたい)
ただ自分の心の安らぐ場所への帰還のみであった。
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