1.『Red fraction』

11/43
前へ
/194ページ
次へ
「わかった。左は引き受ける」 地面を蹴る力を一瞬だけ強く。 飛び上がった身体は空を突き抜け、眼下にさっきまで見上げていた建物の屋上を見る。 着地する瞬間だけ、足首を強く。 その高さの割には静かに着地した屋上で、化け物の姿を見つける。 猿のような、熊のようなハッキリしないモチーフの真っ黒な化け物の姿。 月明かりに照らされているハズなのに、全く毛並みが光らない。 まるで影をそのまま立体化したような……そんな感じ。 唸っているのか、吠えているのか曖昧な叫びを上げながら化け物は僕に迫る。 「うるさい奴だなぁ……」 化け物は屋根を飛び移りながら、僕に向かってくる。 僕は手に握る扇子を僅かに広げ、間合いを見切る。 そして、化け物に向かってある魔術を込めて扇子を振り抜いた。 破裂音とも言うべき爆音。 突風というにはあまりにも乱暴な風圧。 それが化け物を巻き込んで一気に空へ打ち上がる。 「大きすぎたか……」 打ち上げた化け物の姿を見ながら、少し反省する。 まだ少々、無駄があるな…… 落ちてきた化け物に向かって、手をかざす。 「塵はちゃんと舞い上げた。伝搬も最小限に、反応だけは強く……と」 魔素の変化を固定し、パチリと手先から小さく火花を飛ばす。 爆圧で少しだけ手先が押される。 フランベほど一瞬だが、化け物を巻き込むように発火性を持った魔素が爆発し、引火性の魔素が燃え上がった。
/194ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加