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「わかった。左は引き受ける」
地面を蹴る力を一瞬だけ強く。
飛び上がった身体は空を突き抜け、眼下にさっきまで見上げていた建物の屋上を見る。
着地する瞬間だけ、足首を強く。
その高さの割には静かに着地した屋上で、化け物の姿を見つける。
猿のような、熊のようなハッキリしないモチーフの真っ黒な化け物の姿。
月明かりに照らされているハズなのに、全く毛並みが光らない。
まるで影をそのまま立体化したような……そんな感じ。
唸っているのか、吠えているのか曖昧な叫びを上げながら化け物は僕に迫る。
「うるさい奴だなぁ……」
化け物は屋根を飛び移りながら、僕に向かってくる。
僕は手に握る扇子を僅かに広げ、間合いを見切る。
そして、化け物に向かってある魔術を込めて扇子を振り抜いた。
破裂音とも言うべき爆音。
突風というにはあまりにも乱暴な風圧。
それが化け物を巻き込んで一気に空へ打ち上がる。
「大きすぎたか……」
打ち上げた化け物の姿を見ながら、少し反省する。
まだ少々、無駄があるな……
落ちてきた化け物に向かって、手をかざす。
「塵はちゃんと舞い上げた。伝搬も最小限に、反応だけは強く……と」
魔素の変化を固定し、パチリと手先から小さく火花を飛ばす。
爆圧で少しだけ手先が押される。
フランベほど一瞬だが、化け物を巻き込むように発火性を持った魔素が爆発し、引火性の魔素が燃え上がった。
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