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「加減が……ない……な……」
「『魔女』を前に手加減など出来るものか」
「そうかそうか、それは」
シンシアの言葉は最後まで紡がれずに、砲声によって断ち切られる。
シンシアが上げようとした頭は、30ミリの砲弾によって壁に叩きつけたトマトの如く潰れ、果汁を盛大に溢れさせる。
「動くな、と言ったハズだ」
全く、一切の容赦無しに彼女はシンシアに一撃を加える。
もはや、少女の身体で綺麗に原型を残している場所など下顎から喉笛までくらいしかないだろうか。
それでも彼女はオーバーキルと思わない。
屋根を汚して、下の道にまで血溜まりを作ろうか……という頃合いだった。
《面白い……ひどく面白い……この私を前に、勇猛なことだ》
どこからとなく、直接語りかけられるような感覚。
だが、発している存在が誰かは分かりきっている。
周囲から飛び交う黒い線が死んでて当たり前のシンシアの身体の周りで螺旋を描き、靄の中に隠していく。
「簡単にはくたばらないか……『魔女』め……」
いくら銃弾を撃ち込んでも、靄は晴れず、勢いは止まらず、はっきりと見える人影は倒れず、まるで床のシミを踏みつけるような、陽炎に手を伸ばすような、そんな無意味さ。
「さぁ、まだ月はあんなに低いぞ、トリガーハッピー。かかってきな」
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