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この世界は理不尽だと思う。
食物連鎖というループを抗って弱者が逆襲することは出来ない。
どれだけ草木が懸命に育とうが、少し日照りが続いただけで枯れ逝くし、少し雨が続いただけで洗い流されていく。
人間だってそうだ。
貴族の上に平民は立てないし、魔術師の上に一般人は立てない。
弱者は支配階級に抗えないし、支配階級は誰も変えられない。
戦禍がどれだけ大きくなっても、戦禍を起こす人間は遠巻きに数字だけの結果をやり取りするだけだし、戦禍に巻き込まれた人間は抗えないまま、ただ奪われる……
そう、あの日だってその延長線でしかなかった。
世界の縮図を見たと言ってもいい。
それが世界の全てだと、雄弁を振るう機会をくれるくらいは情け深い世界だったならば……だが。
未だに忘れようがない。
忘れる日など来ないかもしれない。
今まで、永遠とは言わないが少なくとも僕の半生では長らく存在し続けると思っていた日常は呆気なく崩れていった。
きっかけはわからない。
とにかく、燃え盛る町並みを幼い義妹と共に逃げ走っていた。
なぜ逃げるのか、理解はしていなかった。
半ば本能的に、半ば盲目的に、どこともなく遠くへ。
それしか考えていなかったと思う。
あちこちで大人達が黒い化け物に襲われているのを尻目に、息が上がるのも忘れて、ひたすら走っていた。
転んだ義妹を乱暴に抱き起こして、半ば背負いながら走った。目の前にある理不尽から、僕達は逃げるしか術がなかった。
無力感すら感じる暇すらありはしなかった。
理不尽は僕達からほとんどを奪い取っていたのだから……
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