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「お兄ちゃん、起きて」
「ん、おっ……」
僕はソファーで肘を衝いたまま寝ていたらしい。
全く、束の間に見た夢が夢見の悪いただの回想とは……
「お兄ちゃん、機嫌悪いの?」
「いや、ちょっと夢見が悪かっただけだ。仕事は終わりか?」
目の前には飾り気のない白いブラウスと黒いだけのフレアスカートという簡素な姿のエミの姿。
どうやら仕事は終わったらしい。
「うん。ごめんなさい、長く待たせちゃったかな?」
「いや、待ってなんかないさ。お疲れさま」
「えへへ、じゃあ帰ろ!」
否定するとニコリと笑ったエミはソファーから立ち上がった僕の手を引く。
以前なら手を握られても、引っ張られることはなかった。
むしろ僕の後ろに隠れるような感じだった。
それがこうして、彼女が明るくなったのは嬉しい訳で。
時折、僕のほうを振り向いては前を向いて歩く。
こんな日が来るのも予想出来ないほど、引っ込み思案だった彼女がこうして明るく振る舞ってくれている。
僕は保護者の使命をある程度は果たせているのだろうか?
思案する僕の前で彼女の髪をまとめている大輪のスカビオサにナズナの花を絡めたバレッタがしゃらんと揺れる。
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