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エミと裏口から灯り1つない裏路地に出て、今度は僕が彼女の手を引いて歩く。
裏路地には木箱やトタンの塊が積み上げられ、暗闇の牢囚が時間をも無視して過ごしている。
ここは魔術の都、魔術の無き者の末路である彼等は僕らに嫉妬の眼以外を向けることはない。
いつものことながら、少女独りに歩かせるには物騒過ぎると思う。
かといって、僕が一緒にいたところで意味はないのかもしれないが。
表は貴族達のモノ。
僕達はどこまでも、裏道のままだ。
「エミ、忙しいみたいだけど身体は大丈夫か?」
溶けるように暗い帰り道で落ちていた廃材に躓いて転びかけたエミを支えて訊いてみる。
慣れない仕事に疲れているんじゃないだろうか、と心配だったのだ。
「大丈夫だよ。お兄ちゃんが優しいからね」
「そうか」
エミはいつも本当に屈託のない笑みを浮かべる。
エミの頭を撫でながら僕はとりあえず杞憂と判断した。
以前が以前だっただけに自分の心配過剰さを差し引いて、もうそこまで心配性になる必要はないのだと自分をたしなめる。
「エミ、辛くなったらいつでも言うんだぞ?」
「ありがとう、お兄ちゃん」
エミの向けた笑顔が薄明かり以上に眩しく思う。
そして、エミの笑顔が鮮明に見えるところまでようやく出てきたのを知る。
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