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「お兄ちゃん、学校はどうなの?楽しいの?」
少しだけ痛いことを訊かれる。
「そうだな……まぁまぁかな」
わざわざエミに教えるようなことじゃない、と僕は薄汚れた現実を隠す。
エミは恐らく僕の言葉でしか、現実を知ることはないのだから。
まだどこか幼い無垢な義妹にこれ以上、汚いモノを見せる勇気など持てなかった。
きっと僕が義兄ではなく父の立場だったならば、いや、もっと僕が覚悟ある大人だったならば、その勇気を持てたのだろうか。
答えはわからない。
僕の覚悟など、結局はそんな程度でしかない。
「お兄ちゃん、また泣きそうな顔してる」
「え、あぁ……悪い」
顔に出ていたらしい。
僕もまだまだ半人前か……
「お兄ちゃん、笑って。でないと私も悲しいから」
エミは繋いでいた手に腕を絡めて、見上げるように寄り添う。
彼女の顔は、僕のことを言えないくらい泣きかけていた。
「じゃあ、まずはエミが笑ってくれ。でないと笑えない」
「う、うん……こうかな?」
自分の笑顔くらい自信を持って向けろよ、と彼女に言う勇気はない。
触ったら壊れそうなほど懸命に作った繊細な笑顔を向ける彼女の頭を撫でてやる。
ずっと繰り返してきたやり取り。
これが僕達がお互いを守るために、暗に作っていたコンセンサス。
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