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「えへへっ、お兄ちゃん!」
こうして作り上げた笑顔を見る度に、僕は微かに後悔する。
僕はエミに笑顔を強要しているだけだ。
本当は誰よりも泣き出したい自分をエミは欺瞞の笑顔で埋め立てている。
ひどく不憫だと思う。
そして、それは全て僕が強いたことなのだ。
それに全て気付いた頃には、もう後戻り出来なくなっていた。
逃げようとも思えなかった。
逃げ出してもお互いが破滅するだけだし、中途半端な僕はエミを放り出すなんて出来なかった。
結局、僕が選んだのはそれが欺瞞まみれでも、それが偽りの積み重ねであっても、彼女の幸せを築き上げる、という一番楽な偽善。
その末路がこれかと自身の答えを自問自答しては、今の僕は曖昧なループを繰り返すだけ。
僕は正解も、正解を選ぶ勇気も、正解を出す力もない。
「見て、お兄ちゃん。満月だよ」
妹が指差した先にはポツリと小さく丸い月が狭い夜空のワンポイントに浮かんでいる。
そうか、今日は満月だったな……
僕はエミと石畳の路地の真ん中で、しばらく月を見上げる。
こんな余裕があるところまで、ようやく彼女を連れてこれたと微かな達成感。
エミをようやくお腹を空かさせたり、お腹を壊したりするようなこともない場所まで。
本当に、長かった……
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