月夜の勿忘草

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「う…………」 小さな呻き声があがった 木で作られた質素な家にピッタリな木製のベッドで彼は静かに目を開く (……ここは……) どこか暖かみを感じるこの家に見覚えはない 自分は暗く、ところ狭しと巧妙な罠が幾つも仕掛けられた洞窟に住んでいた筈 (確か、洞窟にいて……) どこかに強く打ちでもしたのだろうか、痛む頭をそれでも懸命に働かせ、ここに至るまでの経緯を思い出す (ああ、確か人間達が……それで、逃げ出して……崖に……) 何やら罵声をあげながら武器を構え、自分らの住家に入り込んできた人間達の姿が脳裏に浮かんだ そして逃げ出す己と仲間。お互い散り散りに逃げ、自分が逃げた先は運の悪いことに崖だったのだ 捕まれば確実なる死。それならば賭けに出ようと、その身を崖の下……遥かなる地上へと踊らせたところで記憶は途切れている (助かった……のか?)
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