投げやりな青春

夏。

「うおっ」
俺はその桜の真下にいた。移動したわけではない。俺も、桜も動いてなどいない。なのに、距離がゼロになった。そんな感覚だ。
俺の上にいるアルカが、立ち上がる。
「あ、あ、あ、」
何かに操られるような動きで、桜から遠ざかった。
ザザザ……　ザザザ……　ザザザ……
桜が揺れる。紅い花びらが俺に降りかかって来る。
その花びらが風に吹かれて舞い上がったかと思うと、渦巻き、そして、人の形をとった。
もう一度風が吹き抜け、花びらが掻き消えるように吹き散らされたとき、そこに少女が立っていた。
「こんに　ちは　？」
その少女は、コマ落ちしたアニメのような、途中が抜け落ちた動きと発声で話しかけてきた。
病的に青白い肌を、シンプルな桜色のワンピースで包んだ少女。肩に届く程度に切り揃えられた黒い髪が風に揺れる。
「なんだ、あんたは」
「わた　しは生贄　Sacrifice、さ　くら。　この木　の」
「はいストップ」
いきなり現れた少女がそいつに飛び蹴りをかました！
蹴られた少女が派手に吹っ飛び、砂浜に頭から突っ込みいわゆる犬神家である。
「なんだお前」
「あたし？　さくら」
そんなような自己紹介、さっきもされたぞ。
その少女は、さっき蹴られた少女と全く同じ外見をしていた。双子か？
「あっちのさくらを生贄にして生まれたのがあたしなの」
「どういう事だ？」
「さあ？　あたしも知らないのよ。実験には成功したみたいなんだけど研究員は全員死んだみたいだし」
「なんだそりゃ」
「正確にはあたしが殺したっぽいんだけ、」
さくらの姿が吹っ飛んだ。
「ソウヤくん、わたしと遊ぼうよぉ」
アルカだった。
「あー、そうだな。とりあえず泳ぐか」
「うんっ」
アルカは嬉しそうに頷いた。