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「小野寺!?」
「……九条は、ずるいよ!」
そうやっていつも私の心を縛るくせに、近づこうとするとすぐに逃げてしまう。
なのに。
久しぶりに近くで見た九条の顔。
見上げるくらいの身長。
抱きしめられた時の体温。
懐かしい、九条の少し苦い香水の香り。
全部が愛しくてたまらなくて、次から次へと涙が溢れて止まらなかった。
九条は申し訳なさそうに言った。
「小野寺……ごめん……そんな泣くほど嫌だったとは……
もしかして、あいつと付き合いたかった?」
「ばかっ!」
全然違う!
「……九条はっ……意味分かんないんだもんっ!」
九条は真剣な目で私を見ている。
「だっ……て……九条は……どうして……本当にいてほしい時は……
いつも、いないのに……あの日、だって……」
しゃくりあげながら文句を言っていた私は、また九条にきつく抱きしめられた。
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