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雲一つない晴天。
心地好い爽やかな風が吹いている……。
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そんな爽やかな午後に似合わない光景が広がっている。
「あーん!
あーん!」
青いキャップをかぶった小さな男の子が、尻餅をついた状態で泣いている。
男の子は学校の帰りだろうか。
少し離れたとこにランドセルが転げている。
「ガルルル……。」
何と男の子の前に、ちょっと怖い顔のドーベルマンがいる。
じゃらじゃらと鎖がついているから、恐らく何処かの家から脱走してきたのであろう。
軽くピンチである。
ジリジリ……。
じわりじわりとドーベルマンは男の子へ近づく。
男の子は完全に怯え、ガタガタ震えている。
バシッ!
ドーベルマンの顔面に突如、バスケットボールがぶつけられた。
「コラァ!
あっち行け!」
ドーベルマンの前に一人の女の子が勇敢に立ちはだかる。
「キャイン、キャイン!」
女の子の大きな声とバスケットボールに怯んだドーベルマンは一目散に逃げていった。
「冬夢、大丈夫?」
女の子は、尻餅をついている男の子に手をかし立つのを手伝う。
「春美ちゃぁぁぁん!
ごあがっだぁ~。
グスン、グスン。」
『冬夢』と呼ばれた男の子は『春美』に抱きついて泣いた。
「あたしが冬夢を守ってあげる。
だから、泣かないの。
ねっ?」
春美は冬夢をギュッと抱いて頭を撫でた。
「うん。
僕もう泣かない。」
頭を撫でられた冬夢は一生懸命笑った。
ーー冬夢を虐める奴は絶対に許さないんだから……!!ーー
━━……
あたしの名前は花形 春美(はながた はるみ)。
幼なじみの雪野 冬夢(ゆきの とむ)は泣き虫だった。
いつもガキ大将に虐められてピーピー泣くし、怖い犬に追い掛けられてピーピー泣く。
その度にあたしは、ガキ大将をぶん殴り怖い犬を追っ払った。
いつしかみんなあたしの事を『姐御』と呼ぶようになった。
冬夢はいつもあたしの後をちょこまかとついて来ていた。
だから余計にあたしが冬夢を守らなきゃ……って思ってた。
けど、ホントはあたしの方が冬夢に助けられていたんだ。
冬夢といるのが心地好くて、何か安心していた。
不思議と冬夢の前では笑顔でいれた。
あたし、冬夢の事が……。
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