序章

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ダン!というボールが跳ねた音がした。立ちはだかる人たちを流れるようにかわしていって、ゴール!ここでガッツポーズ。 「ゆうじ、おいユウジ」 同じ部の人が冷ややかな目つきで僕を見ていた。僕は体の向きを変えて怪訝そうな顔つきをした。 「なんだよ」 「いや、だから」 言いながら頭をがりがりと掻くといった。 「入ってねーから。ボール」 「え?」 僕が決めたと思ったボールはおしくもコースが外れていたようだ。パンパンと乾いた音が響いたと思ったら、「はい、次行こうか」と顧問のひややかな表情に体を押され、そそくさと練習を再開した。周りもそれに合わせて位置についてバスケットボールを手に取った。 今年の三月、僕はこの中学校を卒業する。今日は引退したバスケ部にみんなと行った。後輩たちも温かく迎えてくれて、良かった。だけど、その優しさと温かさが少し痛かった。その理由は、この中学校で過ごした日々がもうすぐ終わってしまうからだ。みんなとても良い人たちで、この三年間はとても充実していたと思う。 僕が今度行く高校はどんな人たちがいるんだろう。ここのみんなよりも良い人が集まっているのだろうか。不安と期待が僕の心を通過する。希望の中学校生活を送って、希望の高校に受かって、僕の人生は順調だ。 だが、僕はそのとき、知らなかった。これからの人生で、いままで出会ったことがないような問題の場面に足を踏みいれることを。このときの僕はまだ、知らなかった。
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