草原の国

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 大人の腰程まで伸びる長い緑色の草が、見渡す限りに広がっている。空は雲一つ無い快晴、絶好の旅日和であった。視界に映るのは草、草、草。いわゆる草原に、一組の男女が歩いていた。 「エルさんっ!何度言ったら分かるんですか!」  女が、男に向かって叫ぶ。エルと呼ばれた男、一言で言うなら――モヤシだ。貧弱そうな体つきをしているが、どことなく頼りがいがある雰囲気を滲ませている。傷みきってボサボサの髪、それとひねくれた様な顔付きをしている。身に纏う着衣はこの世界の人間では一般的な、柔らかく乾きやすい、薄手の半袖だ。下には固めの材質で出来たズボンを着用している。  腰には黒塗りの鞘に収められた剣が括り付けてある。刀身の長さは人の指の先から肘の辺り程、さしずめ小剣と言ったところか。恐らく貧弱であまり長い剣は扱えないのだろう。あくまでも恐らくだが。  そのエルとやらは、自分に対して叫んできた女に向かって、面倒臭そうな態度を隠そうとせずに言い返した。 「分かってるよ…さっさと歩かないと日が暮れる、だろ。何回同じ事を言ってるんだよ、痴呆症か?」 「何回言っても、歩く速度を速めようとしないから、言ってるんです!」  エルにまた叫ぶ彼女は、目立たぬ格好の彼とは対照的に、とても奇異な見た目をしていた。腰まで伸びる、ふんわりとした金髪に、これでもかと言う程大量のヘアピンを着けている。割合で言うとヘアピンと髪が五分五分くらいだ。  彼女を奇異と表現せざるを得ない要因は、髪に着けるヘアピンだけではない。彼女は何故か白衣を着ているのだ、この大自然の中で。おまけに不思議な事に一切の汚れが見当たらない。染みも、泥も、ゴミも、砂も。何も確認出来ない。まるで新品の白衣を着ているかの様だった。
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