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「早くしないと、この辺りの主が活動する時間帯になっちゃいますって。そうなったら私達みたいな旅人、一瞬で食べられちゃいますよ。知ってます?この付近でたまに見掛ける、アシガーの突然変異種らしいですよ。体と牙がでっかくて動きが目で追えないほど早いって噂です」
どうやら旅人だったようだ。それはさておきアシガーとは、この草原地帯に生息する、小型の虎のような魔物だ。素早い身のこなしと、鋭い牙。その二つを武器に他の魔物を喰らい生きている。天敵となる生物が居ないからか、非常に肉体は脆く、打たれ弱いのが特徴だ。
魔物。それは動物とは似て非なる生物。詳しく解説すると長くなるのでまたの機会にしよう。閑話休題。ヘアピンの女性の話を聞き流し、エルはのんびりと歩き出す。一歩進む度に生い茂る草むらがガサガサと音を立てる。時折足に絡みつき、歩行を阻害する。忌々しい事この上ないだろう。
「なぁアリア」
おもむろにエルは女性――アリアと言うらしい。に、話し掛ける。
「この草原地帯ではあまり急いで移動すると、音もするし周囲の草が揺れる。要するに目立つんだよ。この地帯の主じゃないが、アシガーが沢山寄ってくるだろう。そうなると、戦闘だ。結果的に危険が増し、時間も消費する。リスクが高いんだよ。だったら初めから慎重に行動した方が賢いと、俺は思う。」
一気に言い切り、再びのんびりと草をかき分けて歩み出す。そんなエルを見てアリアは言う。
「なるほど、頭が良いですねぇ。伊達に貧弱な訳じゃないのですね…」
「褒めてんのか貶してるのかどっちだオイ。このヘアピン魔女。」
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