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彼等は今草原の国と呼ばれるこの土地に、旅の道中立ち寄った。観光目的にだ。もっとも魔物が跋扈するこの世界で観光なんぞする人間は、専ら傭兵を雇い馬車に乗り安全な旅する金持ちか、余程の酔狂な奴らしかいないが。ちなみに彼等は後者である。
勿論ただの人間が旅をしていて無事な訳がない。彼等は普通ではないのだ。アリアは科学者で様々な怪しげな術を使いこなし、エルは…魔法剣士なるカテゴリーに属している。
魔法剣士。文字通り魔法も使える剣士だ。同時に自らの武器に魔法の力を宿して戦える。まさに万能の戦人。
「それにしてもまだ街や村が見えませんねえ。そろそろ疲れたんですが。」
そう言うアリアの顔には確かに疲れの色が出ていた。ここ数日一日中歩き続け、心休まる事のない野宿を繰り返して来たのだから、無理もない。前を歩くエルは振り向きもせず、返事もなしに歩を進める。が、急に立ち止まり前に指を指す。
「あれ、村じゃないか?」
彼の指した方向には、草が全く生えていない円の形をした広場があった。この辺りでは珍しく土が露出している。周囲に生い茂る草のせいで間近までいかないと目視は難しい、アリアが気付かないのも無理はない。
だがそこには村など見当たらない。ただの平地があるだけだ。ならば何故エルは村だと言ったのか。その言葉の意味は、すぐに分かった。
看板だ。そこには看板が立っていた。丁度平地の中央、茶色い木製のおんぼろな看板が大地に突き刺さっている。そこにはこう書かれていた。
『ソウの村、この真下』
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