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褐色の魔の者が覗いた少年の後ろの地には 枯れた様な木の渇いた大きな根元に 白い大きな花びらを優雅に開き咲いている美しい花が一輪あった
花の周りの地だけ水で湿っていて 深紅の少年が皮の袋に入っていた水を花に与えていた光景が褐色の脳裏に浮かぶ
魔族が暮らすこの地は作物がなるような豊かな土は無く 雑草すら生きていくには難しい
ある植物といえば葉の無い枯れた様な木々が所々に立っているだけ
花など育つはずの無い この地にその美しい白い花は不自然過ぎる光景
「魔王子様…これは魔王子様が植えたのですか?」
「知らない…いつからか 勝手に咲いていた」
「魔王子様…この様な花はこの地に自然に生えてきません
私は見た事があります この花が人間の住む土地に咲いていたのを」
「……分からない…勝手に咲いていたから」
「魔王子様…魔王子様の歳の頃ではまだ魔力が芽生えていないために人間界に出てはいけないのをご存知でしょう?」
「…でもこの花は本当に知らない
本当に 勝手に咲いていたんだ」
何を聞いても言っても "知らない""分からない"と言い張る深紅の少年に褐色の魔の者は苛立ちを覚えた
褐色の魔の者は花を隠すように立つ深紅の少年の肩を 爪が伸び先が尖った一つの武器の様な手で ぐいっと押し退けると花の目の前に腰をかがめ しゃがみこむ
褐色の魔の者はごつごつと骨張った指で花びらの一枚を優しく撫でる
「魔王子様はこれを美しいとお思いですか?」
「美しいと思うよ」
深紅の少年のその答えが聞こえるのと同時に褐色の魔の者は今まで優しく撫でていた花を手の平で ぐしゃりと潰す
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