1-1 深紅の魔王子

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「あっ…!」 一瞬の出来事だった 深紅の少年に止める隙も与えない程に 魔の者に潰された花は 茎は何ヶ所も折れ花びらも全て違う方に折れ曲がり 切れ ついさっきまでの美しい姿とはかけ離れた"物"がそこにあった 「何をするんだ!」 今まで無表情だった深紅の少年は声を張り上げ 眉間に皺を寄せ怒りの表情を隠す事なく 褐色の魔の者に突進する そんな少年の全力の突進は褐色にとっては虫が当たるのと同じ事の様に びくともしない 褐色の魔の者は少年を軽く自分から払う様に押すと少年は勢いよく地面に尻餅をつく 尻餅をついたまま少年は褐色の顔を睨み見上げる 褐色の魔の者は少年を見ながら自身の花を潰した手の平の匂いを嗅ぐ 「こんなきつい匂いを発する花などの どこが美しいか私には分かりかねます」 そう言うと少年の手から皮の袋を奪い 尻餅をついた拍子にこぼれてしまい 残り少ない水を花を潰した手にかける 水は花を潰した後の手からわずかに緑色に濁った色を含み渇いた地面に落ち しみ込んでいく 「この花が美しいというなら私は人間を殺し 剣についたその血が満月の光に反射する光景の方がよっぽど美しいと思えます この花が発する匂いが良い匂いというなら 私は血の香りの方がよっぽど良いと思えます」 尻餅をついた少年を見下しながら 自分の話す光景を想像しているのだろうか 褐色の魔の者は口角を上げ楽しそうに少年に語る 「お前になど一生分かるものか!」 少年は不気味に微笑みながら話す褐色の魔の者に自身の最大の声量で言葉をぶつける 「いいえ もしかしたら私にも分かる時が来るかもしれません 魔物の一生は長く果てしない 私もこう見えてまだ七十を過ぎた頃 あと百は歳を重ねるでしょう 歳を重ねれば考えも変わるやもしれません その時は魔王子様と花壇とやらを作り花を愛してみたいものですな」 そう言い大きな声で笑う褐色の魔の者 その笑い声に少年の心は不快感で一杯になる
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