1-1 深紅の魔王子

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深紅の少年が声の方へ顔を上げると 少年の三倍はあるであろう大きな体の獅子が ばさりばさりと背に生えた体よりも大きな翼を羽ばたかせている その体に短く生え揃った漆黒の体毛は太陽の光にキラキラと反射し星の様に美しく輝き 一つの夜空そのもの 顔の周りに生える たてがみは海底の深い深い場所に生息する珊瑚を連想させる神秘的な暗い輝きを放つ 獅子の背に生える二本の翼はどの生物の翼よりも大きく美しく その羽は体同様 漆黒で見る者に終焉を思わせる深い闇の色 獅子の目は魔者の証 赤い瞳 それは太陽のごとく燃えるような赤 だが左目しかその燃える赤を見る事はできない 右の太陽はいつのものだか分からないくらいの古い傷が目を縦に横断し その燃える赤を二度と見せぬように瞼を強制的に閉じさせている 「まだ生を受けて十年程しか経っていない 知恵の無いお前だ いつか花を他の者に見つかってしまう日が来るだろうと思ってはいたが…まさかこんなに早く見つかってしまうとはな お前はドジで間抜けなのだな」 深紅の少年を馬鹿にしながら翼を羽ばたかせ砂埃を起こしながら その引き締まった四肢を少年の目の前の砂の地面へと着ける 少年は獅子の巻き起こした風で砂が目に入らないように片腕で目を守り 風が止むのを待つ 「ごめん…せっかく黒獅子(くろじし)が取ってきてくれた花を…」 風が止み目を守っていた腕を下げ 深紅の少年は本当に申し訳なさそうに漆黒の獅子に謝る 「フンッ!全くだ! だがまあ良い 俺様も久しぶりに人間界へ行って楽しかったと言えば楽しかったからな」 「黒獅子よ また花を取って来てくれないか?」 少年は漆黒の獅子に願い出る 獅子は自身の広げたままの翼を背中に畳み込みながら言う 「いくら魔王子の願いでも断る!」 「なぜ?人間界に行くと 魔物狩りだと有無を言わせず 人間に襲われてしまうから?」 「フンッ!人間など魔物狩りだとほざき 何百 何千の兵が束になって襲って来ようが 俺様の敵ではない」 獅子は余裕の笑みを浮かべ言う 「では…なぜ?」 「気が乗らない!面倒臭い!それだけだ」 漆黒の獅子は吐き捨てるように言った 「いつかお前自身の"力" 魔力が芽生え 外へ出られるようになった時 お前自身が取りに行けば良いだろう」
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