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「き…君の名前を…!」
再び背を向けた深紅の少年の声が漆黒の獅子の耳に届く
「俺様はしつこい奴は好かない」
そう言いながら獅子がちらりと目線だけ少年に移すと
つい先程腰を抜かし 立てるはずのない少年が
両手をきつく握り拳を作り 膝をガクガクと震わせ必死に立ってみせていた
「少し驚いただけだ!腰も抜かしてなんかいない!
だから君の名前を…!」
獅子は少年のその執念に驚くのと同時に少し呆れ 溜息を漏らすのと同時に翼をはばたかせ始める
「待って!」
「…俺様の名前なんて もう覚えていない
かつて魔物共の頂点に立とうとお前の父に牙を向けて破れ 西の岩山に逃げ込んでから もう百年以上は経っている
同種達は皆殺されて俺様の名前を呼ぶ者など居なくなった
一人きりで生きる俺様に名前など必要の無い物
自分の名などもう記憶の片隅にも無いのだ
今まで通り"黒獅子"とでも呼べ」
そう言うと獅子は何歩か走り勢いを付けると
後ろの足で地を蹴り上げそのまま西の空へと飛び去って行ってしまった
そんな漆黒の獅子の姿が段々と空の彼方に小さくなるのを見つめながら深紅の少年は一人呟く
「なんて寂しい目をする獅子なのだろう…」
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